FC2ブログ
Old Dancer's BLOG
ここはてりぃが、趣味の共通する方々との得がたいつながりのために、自分の趣味に関係する諸々のことを、壊れながら書きつづるブログです。
   来訪者数: since 2004/12/2...  現在人が見てます
桜の花が舞い落ちる夜に
 午前2時、いや3時…連日連夜、タコ部屋と呼ばれる密室の中でいつ終わるとも知れない作業は続き、弱冠25の彼…仮に、名を「てりぃ」としておこう…彼の生活は疲弊を極め、次第に闇へと沈んでいった。

 折しもほんの7ヶ月前、である。「てりぃ」が長年愛してきたその女性と、念願の新居を構えたのは。ほんの半年ほど、彼と彼女はこれまで二人を引き裂いてきた「距離」と「時間」とにささやかな復讐を果たし、甘く幸せな二人の生活を満喫した、ばかりであった。

 人事異動。崩壊しつつあったバブルの後始末、そうした辛い仕事への転向。いつ終わるとも知れないデスマーチ、担当や組織の責任を追及することを完全に棚上げして進められる「失態の穴埋め」…。何故僕が、と思ってみても、誰かがやらねばならないから、の言葉の下に、個人の幸せは遠く遙かに引き剥がされた…。

 そんな頃である。「二人」にとっての、初めての、桜が舞い散る春が訪れたのは。
 
 北海道の春は、とても遅い。梅と桜がほぼ同時に咲くという、本州の人々には想像もつかない状況で、ゴールデンウィークの前後に道民達は花見に興じる。ソメイヨシノはまずなく、山桜がほとんどで、しかも多くが葉桜になっている、それが北海道の桜である。そこには、木の下に死体が埋まっているのではないかという怪しいロマンも、ガスライト色のちらちら影が生まれては消える無常感も、あまりに程遠い。

 それはそれでよいのだと、彼は思った。北海道には北海道の、本州には本州の、それぞれ文化もあれば良さもある。それはそれで、いいのだろう、と。だが一方で、せっかく本州へ越してきたのに、地元と異なる美しい景色も見ることなく、ただ一人で遅い夫の帰りも待つだけの彼女が、彼にはやはりどこまでも不憫に思えた。彼女は彼女と彼を幸せにするために嫁いできてくれたのだ。彼の留守を任せるために、一方的に呼びつけたのでは決してない。このどうしようもないジレンマを、彼も彼女も感じているやり切れなさを、何とか昇華する手だてはないものだろうか…。

 ある夜、彼がいつものように仕事を終えて帰宅した時、彼女はやはりいつものように起きて待っていた。午前3時近くだったろうか。「外を散歩しないか?」 一瞬、夫の真意を量りかねたような顔をした彼女は、しかし素直に応じた。寮を出て、1~2kmぐらいをぐるりと歩く。奇跡のように咲き誇った桜がひしめく、街灯の明かりの中を、二人きりで…。「きれいね」「ああ、きれいだ」 …以後この風景は、二人の記憶から離れることはない。どんなに辛いことが続いても、世界はこんなに美しい。一歩外に踏み出てみれば、こんなに幻想的な美が心を満たす、憂さを晴らす。それがわかっていれば、きっとどんな困難も乗り越えていけるだろう…。

~~~

 音を上げるような大きな事件は何も無かったが、ゴールデンウィークの狭間に出勤してみれば、思いもよらぬことが続いてズルズルと遅くなり…気が付けば家に帰り着いたのは午後10時になろうかという頃だった。こんな程度で愚痴をこぼすとは、オレも焼きが回ったものだ、いや、相応に年齢を重ねて無理が利かなくなったのかな…そんな思いを巡らしながら、モヤモヤとした行き場のない不満を抱えて、遅い夕食にありつく…。

 「…飲みに出ようか」

 疲れた風だった夫のその言葉に、妻はちょっと戸惑ったが…やや間を置いて、すぐに応じた。子どもが生まれてからは、ついぞ無かった二人での夜の外出。子どもたちが大きくなったことを実感するね、などと、他愛のない会話を重ねながら、歩いて駅前の飲み屋に向かう。まだ寒々しい夜のその街路には、どこまでも裸の木々が並ぶばかりだったが…二人の頭上には、その地では決して見ることのない、あの頃の桜がある。確かに、儚く、狂おしく…。それらは咲き乱れ、また散り急ぎながら、二人の時を超えた幸せを、今日も照らし続けているのだ。
楽しんで頂けましたらWEB拍手をお願いします。
■関連記事~
 ヤバかろうとなんだろうと (2018/01/22)
 寝るんじゃなかったのかw (2008/06/10)
 JR止まっててビビった。 (2018/01/14)
 とりあえず正常 (2017/10/09)
 時間の無い中で。 (2010/02/23)
 寝… (2009/07/09)
 風邪かもしれん (2017/10/08)
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
※コメントについてのポリシーはこちらです。初めての方はご一読下さい。
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
※トラックバックについてのポリシーはこちらです。初めての方はご一読下さい。
https://terry.blog.fc2.com/tb.php/2024-7817726d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック